原作 アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン
(叙事詩 「バフチサライの泉」1824年)
台本 ニコライ・ヴォルコフ
音楽 ボリス・アサフィエフ
初演 レニングラード国立オペラ・バレエ 1934年9月28日
(振付 ロスチスラフ・ザハロフ)
振付・芸術監督:小林 恭
演出 小林貫太
バレエミストレス 翠川ゆり
指揮 磯部省吾
演奏 東京ニューシティ管弦楽団
照明 中澤幸子
衣裳 小林千代子/里見佳子
舞台美術 穴吹 喬
大道具製作 東宝舞台/ユニ・ワークショップ
小道具製作 小谷工房/谷津 勝
かつら 丸善かつら
舞台監督 伴 美代子
主なキャスト
ギレイ汗(タタールの王) 小林 貫太
マリヤ(伯爵令嬢) 宮内真理子(新国立劇場バレエ団)
ザレマ(ギレイ汗の愛妾) 下村由理恵
ワズラフ(マリヤの婚約者) 黄 凱(東京シティバレエ団)
ヌラリ(タタール軍の隊長) 大嶋 正樹(東京バレエ団)
褐色の女(汗の第二夫人) 山本 みさ
タタール軍副隊長 大神田正美 沼口 賢一 田中 英幸
プロローグ(涙の泉の前)
泉の傍らに悄然と佇むギレイ汗。彼の記憶の中に様々な思いが交錯する。
第1幕(ポトツキー城内の中庭)
ポーランドにあるポトツキー城。
城主の娘、マリヤは、婚約者の青年貴族・ワズラフとのひとときの逢瀬を庭園にて楽しんでいる。
やがて夕闇に紛れ、タタール軍の斥候が城の周囲に迫ってくる。
マリヤの誕生日を祝う舞踏会は館の中から庭園に舞台を移して華やかに続く。
ワズラフは愛用の竪琴をマリヤに贈り、彼女も喜んでそれを受け取る。
宴もたけなわとなった時分、突然のタタール軍の奇襲で城の内外は一瞬の内に戦場と化す。宝物や女たちは掠奪され、男たちも戦いのうちに次々と斃れる。
城主ポトツキーはタタールの隊長ヌラリに殺され、ワズラフはマリヤを庇いつつ戦うが、勇戦虚しくタタールの王ギレイ汗に殺されてしまう。
ギレイ汗はマリヤを一瞥して、その美しさに驚嘆する。
第2幕(ハレムの大広間)
美女たちが妍を競うギレイ汗のハレム。
居並ぶ女たちの中でも一際美しいザレマは汗の寵愛を一身に受け、他の寵姫たちから妬まれている。
ギレイ汗とその軍が帰ってくるとの知らせにハレムは沸き立ち、ザレマは誇らしげに彼の帰りを待つ。
ギレイ汗とその軍は帰還した。軍の戦利品や捕虜の中に、輿に乗せられたマリヤがいる。彼女はヴェールを深々と被り、今はワズラフの形見となってしまった竪琴をしっかりと抱えていた。
ザレマは汗を出迎えるが、彼はそれを拒絶する。汗の心変わりに気づき、ザレマは嘆く。
第3幕(マリヤの寝室)
バフチサライ宮殿の一室。
風習も違えば言葉も違う。孤独にさいなまれるマリヤに残されたのは、ワズラフの遺してくれた竪琴のみ。
竪琴の調べに故郷を、父のことを、そしてワズラフのことを想ってわずかに心を慰めるが、やがてその想いは深い悲しみと絶望に変わる。
ギレイ汗は毎夜の如くマリヤを訪ね、その愛を求めるが、あくまでも彼女は拒絶する。
諦めて汗が立ち去ったあとに、ザレマがマリヤの元を訪れる。ザレマはマリヤに「汗の心を返して」と懇願するが、マリヤにはその言葉が通じない。
行き違いの末ザレマは逆上し、短剣をかざす。折悪しく汗が戻ってくるが、逃げ惑うマリヤの背に剣は刺さり、彼女は絶命してしまう。
目前でのこの惨劇に怒った汗は、ザレマを一刀の元に処断しようとするが、ザレマは「汗に殺されるなら本望です」とばかりに粛然と胸を差し出す。その姿に、汗は剣を振り下ろすことができない。
第4幕(刑場の広場)
ザレマの処刑当日。
覚悟を決めたザレマは、断崖から突き落とされ、哀れ刑場の露と消える。最後にザレマが送った視線も、汗の心を動かすまでには至らない。
沈み込んだ汗の心を奮い立たそうと、ヌラリは兵士たちを率いて勇壮に踊るが、それにも汗は応じない。
エピローグ(再び涙の泉の前)
泉の前に佇む汗の思いの中には、清らかなままで逝ったマリヤの、愛に殉じたザレマの、それぞれの面影が交錯する。
既にギレイ汗は猛き覇王でも、勇敢な戦士でもなく、一人の孤独な男に過ぎなかった。
「バフチサライ」はクリミア半島にあるウクライナの都市で、かつてのクリミア・ハン国の首都です。その名はクリミア・タタール語で「庭園の宮殿」を意味するそうです。
この都市にある噴水「涙の泉」の伝説に想を得て、ロシアの著名な詩人、プーシキンが詠んだ叙事詩をバレエ化した作品です。
「涙の泉」とは、クリミア・ハン国の最後の汗が妻マリヤと愛妾ザレマの死を悼み、「石にも涙を流させよ」と造らせたもの。今回の舞台では青銅造りのようにも見えましたが、ネットで見つけた実物の写真では白い石造りでかなり大きいモニュメントでした。
このバレエは、知名度のわりには日本での上演回数が非常に少ないです。(牧、東バ、新国立ではレパートリーに入ってないはず)
実は私も山岸 凉子先生の傑作バレエ漫画「アラベスク」と有吉 京子先生の名作バレエ漫画「SWAN」で知った口…。(映像などでも観たことがありませんでした)
で、一度は観たいと思ってたところで運良く今回の公演です。
しかも宮内真理子さんと下村由理恵さんが出演だったので、大いに期待して観に行きました。
これだけのキャストを揃えたのに、今夜一回限りの公演だったと言うのは非常にもったいない気がいたしました。
宮内さんは、1幕前半での幸福な少女から一変してタタール軍の虜囚となっての嘆きの乙女の演技が切なく、可憐な容姿と相まって適役です。(踊りは言うまでもなく上手い)
下村さんのザレマの華やかなのに哀しい踊り(汗の心変わりを翻意させようとする)は、観てて切ないものがありました。(今回の舞台メイクはちょっと安藤ミキティに見えてしまいました…。プログラム所載の写真では全然似てないのに)
黄さん演じるワズラフは秀麗な美青年で、タタール軍の一党と見事な対照をなしてます。宮内さんのマリヤとの組み合わせは美男美女でよくお似合い。一幕でのパ・ド・ドゥも綺麗でした。(白のコスチュームが似合う爽やかな貴公子だけど、1幕後半でタタールの兵に殺されてしまう役)
そしてタタールの兵士たちは見事に悪相揃いでした。
(メイクの賜物もあるだろうけど、モヒカンあり、丸坊主あり、むさいのあり、ごついのやらちっこいのやらあり、とある意味百花繚乱)
またヌラリ役の大島さんがその悪相メイク(がっつり黒々目張りにアイパッチ、丸坊主)がよく似合ってるんだよな…。(この前の薔薇の妖怪…もとい薔薇の精よりずっとよかったです。踊りも演技も。4幕での兵士を率いて踊る戦いの踊りは大迫力でした)
追記:2007年のブログからです。所属は当時のもので宮内さんはすでに引退、大島さんも東バを退団して久しいです。上演回数が少ないので本当に観られてよかった作品ですが、その後は2016年に至るまで再見の機会がありませんね…。
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